苦難の末、どうにか屋根も床も安定した空間に辿り着きました。

診察室と思しき部屋は、いかにも一昔前の医院といった感じ。




崩壊の激しい状況にも関わらず、数多くの残留物を散見。

ちなみに此の薬は別名アスピリン、鎮痛剤として良く知られています。




そして調剤室、こちらも残留物として多種多様な薬品が並ぶ。

小さな町医者が分業制を敷いている筈も無いので、

診察に、調剤にと、先生は日々多忙だったものと推測されます。



大量に並んだ薬瓶は、廃医院としては割と良くある光景ですが、

日常生活では有り得ない光景だけに、何だか身構えてしまいます。




普通薬と劇薬の違いは、50%致死量に達する値(量)の違いであり、

少量でも効果の高いものほど、劇薬であると言えます。

取り違い防止の為、この2つを同一の場所に保管してはいけません。



どういった理由で当物件は廃院となり、放置されたのか。

此の辺りは病院の少ない地域で、貴重な存在だった筈なのに…。




この紙は薬品の値段表か、はたまた調剤用のレシピか。

PCの無い時代だけに、活字と記憶力だけが頼りです。




棚に並ぶ多くの薬品達も、其々に名称や形態、価格、効能など違いが有り、

その全てを把握しなければならない、先生の苦労が偲ばれます。




人だけが消えて、朽ちるに任せたまま時が過ぎ行く、沈黙の廃医院。

周りの道は人も車も良く通るのに、誰も此の廃医院を気に留めない。

廃墟としての寿命も、また知らない内に過ぎてしまうのだろう。





伊豆らしい長閑な風景に溶け込んでいた、一軒の廃屋。

元は大きな平屋だったと思われますが、一部屋根が落ちて倒壊し

訪問できる箇所も分断されてしまい、探索に難儀しました。


そんな状態の為、物件として余り期待はしていなかったのですが、

ごく一般的な廃屋かと思いきや、実は廃医院であった事、

また其れを証明するだけの残留物が豊富に存在していた事など、

想定外の光景を目にして、逆に酷く緊張したのを思い出します。


内部に残されたカレンダーから推定される廃墟年齢は、

およそ30年といったところですが、医院としての稼働は

それよりも前に停止していたのではないかと思われます。


物件周辺の地域は特段に僻地という訳では有りませんが、

人口若しくは土地面積に対し、医師の比率が少ない様な状況です。

全国的に見ても、医師の不足が叫ばれている現状の中で、

医療過疎と呼ばれている地域は、多々あるものと思われます。

当物件の様な小さな医院であっても、一次医療機関として

町では貴重な存在の筈であり、廃院ともなると大きな損失です。


廃医院を語る中で、話題性やビジュアルばかりが観点となっていますが、

廃院に到った理由や地域への影響などは、殆ど話に挙がりません。

その辺を掘り下げてこその廃医院だと、個人的には思うのですが…。




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